記事一覧

『殿』と『様』にみる敬称の用い方と手紙の宛名の書き方

ある辞書によると、

【殿】(どの)
接尾:人名や官職名などに付いて敬意を添える(例:鈴木二郎殿、部隊長殿)。古くは「関白殿」「清盛入道殿」など、かなり身分の高い人に付けて用いられたが、現在では、目下に対してや、事務的・公式的なものに用いることが多く、目上に対しての私信には殆ど用いない。

【様】(さま)
接尾:人を表す名詞または身分・居所などに付いて尊敬の意を表す(例:仏様、お母様、鈴木様)。接頭語「お」「ご」を冠した名詞または形容動詞に付いて丁寧にいう場合に用いる。(御馳走様、御苦労様)

と出ている。
が、別の辞書では、「様」の用例に「社長様」というのが出ている。これは、“「殿」は目下に対して用いる(社長は目上なので「様」を用いる)”というところから来ているように思われるが、“「殿」を事務的・公式的なものに用いる”のだとすれば、「社長」の後に付くのは「様」ではなく「殿」のような気もする。果たして、本当はどちらが正しいのだろう。

古くは身分の高い人に付けて用いられていた「殿」だが、現在では、目下に対してや事務的・公式的なものに用いられるようになっている。そのことは表彰状や給与明細などで「殿」が使われていること等を見ても納得できる。が、いくら事務的・公式的なものに用いられるとはいえ、見積書などの公用文や商用文などで社外に出す場合には「殿」ではなく「様」を用いた方がいいのではないかと思う。というのも、「殿」が目下に対して使うという概念がある以上、いくら事務的・公式的とはいえ、取引先からもらう文書に「殿」と付けられていると、その文書をもらった人からすれば、何となく下に見られているような感じがして嫌な気分になってしまうからである。
とすると、「社長」の後には、付くとすれば「様」なのだろうか…けれど、「御社」「先生」「部長」等は、それ自体が相手を敬う語であるから、例えば、それが得意先の部長であっても「部長様」とは言わないものだし、だから「社長」の後に「様」は付けないものだと思っていたのだけれど…それは、話す場合にそうであって、文書等で記す場合には「部長」の後であっても「様」を付けるべきなのだろうか。

わたしがフレッシュマンだったころは、「殿」は「営業部長殿」「中田部長殿」など、役職名もしくは個人名のついた役職名で手紙等を出すときに用いて、「様」を付ける場合は「部長中田三郎様」のようにする、と当時の上司や先輩から教えられものだが、最近では、“「殿」は目下に対して用いる”という考え方からか、公用文・商用文等で得意先等に宛てる場合は特に、「様」を用いることが多くなって来ているように思うし、人の感覚(言葉に対する感じ方)も、役職の後に「殿」と付けられるよりも「様」とされる方が心地いいと感じるようになって来ているように思われる。ことばは生き物、まさにそう思う。その辺のことを考慮すると、先の「社長様」という書き方にも納得できるし、「部長」の後に「様」をつけて「部長様」としても、あながち間違いではないのかもしれない。



敬称の用い方の例

●様(人を表す名詞または身分・居所等に付いて尊敬の意を表す)
 ・山田太郎 様
 ・総務課長 山田 様(「殿」を用いる場合、「山田 総務課長 殿」)

●殿(人名や官職名、役職名等の後に付いて敬意を添える)
 ・総務課長 殿
 ・山田 総務課長 殿(「様」を用いる場合、「総務課長 山田 様」)

●先生(人名の後に付く敬称なので「◯◯先生様」等とはしない)
 ・佐藤一郎 先生(「様」を用いる場合、「◯◯大学教授 佐藤一郎 様」等)

●方(人名に付いて、寄宿している場所を表す)
 ・山田様方 田中一郎様(「山田方」とするのは山田様に対して失礼なので必ず様方とする)

●各位(二人以上の人を対象にして、それぞれの人に敬意を表す語で、「皆様方」の意なので「各位様」「各位殿」とはしない)
 ・◯◯スポーツクラブ会員各位
 ・父兄各位

●気付(郵便物を、相手先の住所ではなく、相手の立寄先や関係のある場所等宛に送る場合に、宛先の後に付ける)
 ・山田太郎様宅 気付 田中一郎様
 ・◯◯株式会社御中 気付 田中一郎様 

●御中(会社・団体等、個人名以外の宛名の後に添える語)
 ・◯◯株式会社 御中
 ・◯◯株式会社 人事課 御中

●係(受付係や会計係等のように名詞の後に付く。官庁や鉄道等の場合は多く「掛」と書く)
 ・◯◯クイズ係 御中
 ・◯◯株式会社 受付係 御中



宛名の書き方の例

  ◯◯株式会社 御中
    人事課長 伊藤一郎 様

「敬老粗品」これってホメことば?

NHKの言葉おじさんの出ている番組、この番組の中で、言葉おじさんのコーナーはほんのわずかな時間だが、変わりゆく日本語に関心のあるわたしには興味深い内容で、この日のお題は「敬老粗品」だった。
このコーナーは、視聴者からのハガキ(等の言葉に関するご意見)をもとに進められるもので、この日は、敬老の日にもらった粗品に記してあった「敬老粗品」というひと言に疑問を持ったという意見が取り上げられていた。
言われて見まで気がつかなかったが、このひと言は確かにヘンだ。なぜって、「敬老」は敬う言葉で「粗品」は粗末な品物ということだから。

これは、贈った側からすれば「敬老の日の記念の品」という意味だったのだろうけれど、贈られた側にしてみると、敬われてるんだか粗末に扱われてるんだか…と、ならなくもない、というお話。
番組でも言われていたが、こんな場合は、へんに謙って「粗品」にしたりせずにその意味のまま「敬老記念品」とすればよかったのではないかと思う。

街中で「豪華粗品進呈」や「ステキな粗品をプレゼント」などもよく耳にするという意見もあったが、こういう表現もおかしい、とのことだった。なにげなく使っている言葉だけに、言われてみて初めてハッと気がつくということも少なくないが、そう言われてみると確かに、前者は「豪華だけど粗末な品物なの?」と疑問に思うし、後者にしても「ステキなのなら何も粗品と言わなくてもいいんじゃないか」と思わなくもない。ただ、「粗品だけど、ステキなプレゼントですよ」という意味なのだろうなぁと、なんとなく理解はできるが。
こうした間違った敬語の使い方について番組では、「プレゼント」を「粗品」に置き換えてしまうところに問題があるという見解を示していた。

ほかにも、「粗茶でございますが」「お口汚しに」「ご笑納ください」や、「愚妻」「愚息」など、謙った言い方はたくさんある。謙りすぎると嫌みなだけだが、謙った言い方そのものは日本語の“美”の部分でもあると思うから、こうした言い方までも直してしまう必要はないような気がする。ただ、話す相手によっては、「あなたに似合うと思ったから」や「おいしかったので是非」、あるいは「妻が」「息子が」といった言い方でもいいのではないかとの向きもあるようで、そうした言い方のほうが良いと感じることも多々ある。…たしかに、今の時代、いくら人前だからといって、夫から自分のことを「愚妻」と紹介されて気分のいいの妻も少ないのではないかとも思う。

まとめとしては、「粗品」は「粗末な品物」という意味ではあるけれども、謙遜して相手に気を使わせないために使うのではないか、ということだった。字から見て取れる言葉の意味も、ときの流れとともに少しずつ変化してきているのかもしれない。



言葉おじさんとアナウンサーズが歌う“みんなのうた”の「これってホメことば?」

敬語の分類に新風〜3分類から5分類に

2006年10月2日に、文化審議会国語分科会の敬語小委員会は、これまで3分類(尊敬語・謙譲語・丁寧語)だった分類法を、謙譲語と丁寧語を細分化し、それぞれに丁重語と美化語を加えて、5分類(尊敬語・謙譲語・丁重語・丁寧語・美化語)にする指針案をまとめた。学校教科書には3分類のものや4分類のものもあるらしく、詳細は現在のところ曖昧なままという印象だが、その詳細は下記の通り。

【3分類】
従来の考え方で以下の3分類。
( )内は「自分」が話し手で「相手」が聞き手の場合の考え方の一例

  • 尊敬語(自分よりも相手を高めて言う言い方。例:言う→おっしゃる、お話になる)
  • 謙譲語(相手よりも自分を低くすることで相手を高める言い方。 例:言う→申す、申し上げる)
  • 丁寧語(丁寧語 自分が相手に対して敬意を表すため、言葉遣いを丁寧するのに用いるもの。「です」「ます」「ございます」など。例:居る→居ます。言う→言います)

【5分類】
従来の3分類のうち、謙譲語が「謙譲語」と「丁重語」に、丁寧語が「丁寧語」と「美化語」に細分化されて以下の5分類に。
( )内は「自分」が話し手で「相手」が聞き手の場合の考え方の一例

  • 尊敬語(自分よりも相手を高めて言う言い方。例:言う→おっしゃる、お話になる)
  • 謙譲語(相手よりも自分を低くすることで相手を高める言い方。 例:言う→申す、申し上げる)
  • 丁重語(謙譲語を兼ねた言い方だが、動作の受け手がなくてもよい。例:居る→おります。言う→申します)
  • 丁寧語(丁寧語 自分が相手に対して敬意を表すため、言葉遣いを丁寧するのに用いるもの。「です」「ます」「ございます」など。例:居る→居ます。言う→言います)
  • 美化語(上品とされる言い回しや言葉遣いで、従来は丁寧語に分類されていたもの。「お」「ご」等をつけたり語彙を変えて作る。例:酒→お酒。料理→お料理。めし→ごはん。便所→お手洗い)

今回の指針案では、これまでの3分類では丁寧語とされていた「お料理」など上品さを表すための言葉は「美化語」として分類し区別されることとなった。が、この「美化語」なるものは、「です、ます」などとともに丁寧語の一種とされているが、これを既に独立した種類として扱い、4分類(尊敬語・謙譲語・丁寧語・美化語)としている学校教科書もあるらしい。

この新たな指針は、敬語の性質を厳密に分類することで使い方の混乱を防ぐのが狙いだとしているが、果たしてそううまく狙いどおりに行くだろうか。わたしは、“複雑な分類でさらに混乱を招く恐れあり”との意見に一票を投じる。

ページ移動